アトピー性皮膚炎の方にとって、お湯が刺激になってお風呂に入るのがつらいときもありますよね。
また、下記のような疑問を持っている方もいるのではないでしょうか。
「1日に何度も入ってもいい?」
「適温ってどのくらい?」
「気をつけるポイントは?」
この記事では、アトピーの方の正しい入浴方法について解説します。つらい症状が少しでもやわらぐヒントも紹介しているので、参考にしてください。
アトピーがある人のお風呂の入り方
アトピーがある人のお風呂の入り方のポイントは、以下のの7つです。
- 入浴・シャワーの頻度は1日2回を基本に
- 入浴時間は15分前後に
- お湯の温度は38度から40度に
- シャワーの水圧は弱めに
- ボディソープは肌に合ったものを
- 洗い方は「こすらない」「残さない」
順にみていきましょう。
入浴・シャワーの頻度は1日2回を基本に
かゆくてかきむしってしまい傷ができると、お湯がしみて痛みがつらい場合もありますよね。敏感になっている肌には、お湯さえも刺激になる場合があります。そのため入浴が辛いと感じる方もいるのではないでしょうか。
しかしアトピーの方にとって、入浴により肌を清潔に保つことは重要です。とくに、塗ったステロイドの油分が残ったままだと、新しく塗るステロイドの効果が十分に発揮されません。そのため、残った油分を取り除くためにも、できるだけ毎日入浴しましょう。
長湯しなければ、1日2回の入浴やシャワーも大丈夫だというアメリカの調査もあります。
中~重症の6カ月から11歳児を対象に、1日2回15~20分間の入浴をおこなったところ、週に2回10分以下のグループに比べ、肌の状態が改善したとのこと。(入浴後はすぐにスキンケアするようにしています。)この結果から、1日2回の入浴もしくはシャワーを基本に考えるとよさそうです。
参照:Frequent Versus Infrequent Bathing in Pediatric Atopic Dermatitis: A Randomized Clinical Trial
アトピーの大敵!黄色ブドウ球菌の感染を防ぐ
黄色ブドウ球菌は、皮膚や粘膜に常在する菌です。顕微鏡で見ると、ブドウの房状に見えることからブドウ球菌と呼ばれています。そのなかで黄色い色素を持つものが黄色ブドウ球菌です。
アトピーの肌は、バリア機能が低下しているため黄色ブドウ球菌が侵入しやすく、このことは肌の状態がさらに悪くなる原因の一つでもあります。常在菌である黄色ブドウ球菌の二次感染で症状を悪化させないためにも、入浴やシャワーは重要です。
入浴時間は15分前後で
長湯は肌の乾燥につながります。というのも皮脂や肌の保湿成分が湯に流されてしまうため。
一見、潤っているように見えますが、皮膚表面にある角質は水分を含んで飽和状態になっています。角質細胞の間隔が広がることで、肌の潤いを保つ天然保湿成分やセラミドなどが流れ出てしまうのです。その結果、肌を守るバリア機能が低下し、乾燥しやすくなります。
まめな入浴は推奨されていますが、トータルの入浴時間は15分前後とし、湯船につかる時間は大人で10分、子ども5分以内に調整しましょう。
また、お風呂上がりはスキンケアや保湿効果が高い入浴剤などで、乾燥を防ぐことも大切です。
お湯の温度は38度から40度に
高温のお湯は急激に血行を促進し、かゆみ成分(ヒスタミン)を生成しやすくなります。そのため、お湯の温度は、少しぬるめの38度から40度に設定しましょう。
ヒスタミンとは、アレルギー反応や炎症に関与する生理活性物質です。アトピー性皮膚炎の肌は外部からの刺激に過剰に反応してしまうため、大量のヒスタミンが放出され、かゆみを引き起こしやすいと言われています。
かゆみを抑えるためには、ヒスタミンの生成を抑えることが大切です。
シャワーの水圧は弱めに
アトピーの方は、肌への刺激で症状が悪化することもあります。そこで気をつけたいのがシャワーの水圧。強い水圧は、肌への刺激になるだけでなく、保湿成分を必要以上に洗い流してしまうことにもつながります。
かゆみを引き起こす原因にもなるので、水圧は弱めに調節しましょう。水圧を調整できるシャワーヘッドも販売されているので、交換するのもおすすめです。
ボディソープは肌に合ったものを
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021によると、洗浄剤に関して次のように指摘しています。
石鹸・洗浄剤の主成分は界面活性剤であることから、過度の誤った使用は皮膚の乾燥を憎悪する可能性がある。さらに、洗浄剤に含有される色素や香料などの添加物は、皮膚への刺激を引き起こす可能性も懸念される。これらのことから、皮膚の清潔を保つために石鹸・洗浄剤を使用することは有用であると考えられるが、使用する際には、年齢や部位・季節などを考えた皮膚の状態、使用する石鹸・洗浄剤の種類や洗浄方法を考慮する必要がある。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021
また、洗浄剤の種類による優位性に関するエビデンスはないため、肌に合った洗浄剤を選ぶことが重要とのこと。
数多くの洗浄剤の中から、アトピー性皮膚炎の方が使用する機会が多いのは次の3種類です。
- 弱酸性ソープ
- 石鹸
- 薬用ソープ
この3つの洗浄剤について簡単に説明します。それぞれの特長を知り、肌に合ったものを選びましょう。
弱酸性ソープ
肌のpHは弱酸性のため、ボディソープも弱酸性が肌に優しいというイメージを持っている方もいるのではないでしょうか。確かに、弱酸性ソープは肌のpHに近いため刺激が少ないといえます。
ただし、汚れを落とすために、弱酸性ソープは合成界面活性剤の力を借りています。合成界面活性剤は水で流れにくい性質があるため、すすぎ残しがないように気をつけましょう。
石鹸
石鹸は天然油脂(脂肪酸)をアルカリと反応させてつくるため、pH9.0~11.0程度の弱アルカリ性です。アルカリ性には酸性の汚れを中和させて落とす働きがあり、汗や皮脂・不要な角質などの弱酸性の汚れを落としてくれます。
酸性の物質に触れると中和されて洗浄力を失うため、洗いすぎを防げます。
薬用ソープ
一般のボディソープは化粧品ですが、「薬用」のボディソープは医薬部外品です。医薬部外品とは、薬機法で定められた医薬品や化粧品に当たらないもので、特定の症状に効果がある有効成分を配合しているものを指します。
肌荒れや炎症を抑える効果がある「グリチルリチン酸ジカリウム」や「アラントイン」などの消炎剤配合のものを試してみましょう。
pHとは
酸性とアルカリ性の度合いを表す数値。0~14まであり、pH7を中性とし、それよりも数値が小さいほど酸性、大きいほどアルカリ性が高い。
洗い方は「こすらない」「残さない」
体を洗うときは、ゴシゴシこすらないようにしましょう。ボディソープや石鹸をしっかり泡立てたのち肌にのせ、手または綿や絹などの柔らかい素材のタオルで優しく洗います。
泡を流すときは、シャワーよりも湯船のお湯をくんでかけるほうが、水圧の刺激が少なくすみます。もちろん、勢いよくかけるのではなく優しくかけるようにしましょう。
洗い残しは、肌への刺激になります。関節や背中、フェイスラインなどは、洗い残しが多いため、手で確認しつつしっかり洗い流しましょう。
本当に大事なのは継続治療
アトピー性皮膚炎は、症状が良くなったり悪くなったりすることが多く、根治が難しいといわれる病気です。原因もはっきりしないため、ステロイド外用剤をいつまで塗るべきか悩ましいところ。
乳幼児のアトピー性皮膚炎は、生後1~2カ月の乳児湿疹から始まり、1歳半~2歳くらいまでには自然に軽快することも多いようです。その間「根気強い治療の継続が大切」と小児アレルギー専門医もアドバイスしています。
アトピーがある人のお風呂後のスキンケア
肌の刺激を抑えるために、お風呂後のスキンケアも重要です。3つのポイントにまとめました。
- 水気は「ポンポン」で取る
- 正しい量の薬を塗る
- 10分以内にスキンケアする
順にみていきましょう。
水気は「ポンポン」で取る
アトピー性皮膚炎の方の肌は、バリア機能が低下しており、ちょっとした摩擦も刺激に感じてしまいます。「洗う時にゴシゴシこすらない」ことと同様に、お風呂上りにタオルドライするときもこすらないことが大切です。
やわらかいタオルで水滴を「ポンポン」と押さえるように拭きとりましょう。
正しい量の薬を塗る
入浴後の皮膚は、水分や脂質を蒸散・流出しやすい状態です。そのため、すぐの保湿がおすすめですが、その前に患部に薬を塗っておきましょう。薄くのばすのではなく、たっぷりとのせるのがコツです。
塗り方や塗る量は、薬を処方されたときに必ず確認しておきましょう。
ステロイド外用薬の場合、薬の効用を得るための目安分量にFTU(フィンガーチップユニット)とよばれる単位が使われています。
1FTU=大人の人差し指の先から第1関節まで薬を乗せた量=約0.5g
(※ただし口径の小さい5gチューブであれば0.2g程度)
ローションタイプの場合は、1FTU=1円玉大です。1FTUは大人の手のひら約2枚分の面積を塗るのに適した量といわれています。
10分以内にスキンケアする
入浴後は、急速に肌の乾燥が進みます。保湿をしないままだと、入浴前よりも水分量が低くなってしまう危険性も。
お湯で皮脂や天然保湿成分(MMF)や角層細胞間脂質などの保湿物質が流出してしまうためです。日本健康開発財団によると、入浴10分以内に保湿すべきとされています。
入浴1分後にスキンケアすれば、2倍近い水分量となり60分後まで水分量をキープできます。
バリア機能が低下して乾燥しがちなアトピー性皮膚炎の人は、お風呂上りにすぐスキンケアするよう心がけましょう。
アトピーとお風呂に関するトラブルの対処法
お風呂に入るとかゆくなることが多いアトピー性皮膚炎。その時の対処法についてポイントをまとめました。
- 入浴後に痒くなったら冷やす
- 痒さが目立つときは冷たいシャワーを浴びる
- 改善が見られないなら医師に相談する
順にみていきましょう。
入浴後に痒くなったら冷やす
入浴後、かゆくなる原因には次のようなものがあります。
- 乾燥
- 汗
- 温度差
乾燥は、入浴後すぐに薬を塗ったり保湿したりすることで防ぎましょう。
また、体が温まって汗をかくと、かゆみが誘発されることもあります。さらに、入浴により体温が上がることが引き金となり、ヒスタミンが分泌されかゆみにつながる場合も。
そんな場合は、冷やすことで炎症や熱感を抑え、かゆみや赤みをやわらげましょう。保冷剤をハンカチやタオルにくるんでかゆい場所に当てると、炎症が治まります。
痒さが目立つときは冷たいシャワーを浴びる
肌を冷却することで、体のほてりを抑えかゆみを軽減できます。お風呂の最後に冷水シャワーを患部にあてるのもおすすめです。
ほかにも冷水シャワーは、疲労回復や代謝促進、免疫力向上などの効果もあるとされています。最初は寒くない時期に、無理のない範囲で試してみましょう。
冷水シャワーが難しい場合は、肌の乾燥に注意しながら扇風機やドライヤーの冷風をあててほてりを取ります。
改善が見られないなら医師に相談する
症状が改善しないときは、改めて現状を医師に伝え、症状に合った薬の処方や治療を受けましょう。
炎症を抑えるために処方される外用薬は、ステロイド外用薬・タクロリムス軟膏・デルゴシチニブ軟膏の3種類があります。その時々の症状にあった外用薬を処方してもらいましょう。
ステロイド外用薬は、含まれるステロイド濃度により20種類以上から選ぶため、自己判断で選ぶのは危険な場合もあります。必ず専門医に症状を確認してもらったうえで、適切な処方をしてもらいましょう。
参照:日本アレルギー学会|アトピー性皮膚炎診療ガイドライン
アトピーとお風呂に関するQ&A
アトピー性皮膚炎とお風呂に関する、よくある質問についてまとめました。
- サウナはアトピー改善に役立つ?
- アトピー体質の人は毎日お風呂に入らないほうがよい?
- たくさん垢が浮くのはまずい?
- お風呂断ちは役に立つ?
- 塩素除去には効果がある?
順にみていきましょう。
Q. サウナはアトピー改善に役立つ?
サウナは、症状の悪化を招く可能性があるため慎重に検討しましょう。サウナの高温によって急激な温度変化にさらされると、かゆみを感じやすくなる場合も。
軽度の症状の方であれば、体調が良いときに入るのは問題ないかもしれませんが、事前に医師に相談するとよいでしょう。
Q. アトピー体質の人は毎日お風呂に入らないほうがよい?
肌を清潔に保つうえで毎日の入浴は大切です。汗をかきやすい季節であれば、1日2回の入浴でも問題ありません。
ただし大切なのは、肌に刺激や負担をかけないようにすること。ゴシゴシこすったり強めの洗浄剤を使用したりすることはは避けましょう。肌を清潔に保ち、保湿を心掛けることで、状態が改善する可能性もあります。
Q. たくさん垢が浮くのはまずい?
アトピー性皮膚炎の方の皮膚は、通常約1カ月であるはずのターンオーバーサイクルが乱れがち。とくに乾燥や搔きむしりにより角質層がはがれやすくなっています。入浴の際に、剥がれ落ちた角質層が垢のように浮くこともあるかもしれません。
しかし、これは不可抗力とも言えます。通常のターンオーバーサイクルに戻すために、治療と保湿を心掛け、肌の状態をよくしていきましょう。
Q. お風呂断ちは役に立つ?
洗わない・保湿しないことによって症状が良くなるといった説もあります。
ただし、アトピー性皮膚炎の症状悪化は、汗・汚れ・ブドウ球菌・ほこりなどさまざまな要因が重なって起こるものです。そのため、入浴によりこれらの原因を除去してあげることが重要です。
極端な説もありますが、お風呂断ちには安易にチャレンジしないことをおすすめします。
Q. 塩素除去には効果がある?
アトピー性皮膚炎の場合、外部の刺激から守ってくれるバリア機能が十分に機能しません。そのため、水道水やプールの水に含まれる塩素が刺激となり、症状が悪化することもあります。
塩素の刺激を防ぐ簡単な方法として、塩素除去成分を含む入浴剤や保湿成分含む入浴剤を試してみるのがおすすめです。肌に合うかどうか、試供品などで試してみましょう。
まとめ
この記事では、アトピー性皮膚炎の方の入浴に関することについて解説しました。
最後に重要な点をおさらいしておきましょう。
- 肌を清潔に保つために入浴する
- 1日2回の入浴もOK
- ボディソープは刺激が少ないものにする
- 肌をこすらず優しく洗う
- 入浴後10分以内にスキンケアをする
- かゆみが出た時は冷やす
- 何かあれば医師に相談する
アトピー性皮膚炎の方にとって、症状がひどいときの入浴は辛い時もありますよね。
症状を我慢して必ず入浴すべきとはいえませんが、肌に残った薬・汗・汚れは症状悪化の原因になりかねません。薬の効果を最大限引き出すためにも、入浴で肌を清潔に保つようにしましょう。