歯や骨のもとになるカルシウム。私たちの体にとって重要な栄養素です。
「カルシウムが不足するとどうなる?」
「歯や骨が弱くなる以外に、どのような影響があるの?」
「カルシウムを摂りすぎても大丈夫?」
この記事では、カルシウムが不足した時の症状や影響を詳しく解説します。
最近どうも調子が出ないという方は、もしかしてカルシウム不足が原因かもしれません。ご自身に照らし合わせてみてチェックしてみましょう。
カルシウム不足になるとどうなる?1日の摂取量や多く含む食品は?
日本人にとってカルシウムは不足しがちな栄養素です。
その現状を次の4つのポイントにまとめました。
- カルシウムの1日推奨摂取量は成人男性が750㎎・成人女性が650㎎
- カルシウムは全世代で不足しがち?
- カルシウムを多く含む食品は?
- 過剰摂取の心配は?
順に見ていきましょう。
カルシウムの1日推奨摂取量は成人男750㎎・女650㎎
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)によれば、カルシウムの推奨摂取量は成人男性750~800㎎/日・成人女性650㎎/日です。
カルシウムの99%は歯や骨を構成しています。残り1%は、細胞の分裂や筋肉の収縮、神経興奮の抑制などに関係しており、非常に重要な栄養素といえます。
成長期のカルシウム推奨量は最も多い
厚生労働省が定めた1日摂取推奨量を見てみると、成長期である8歳から14歳にかけて最も多くなっています。とくに一番身長が伸びる中学生の場合、男子1000㎎/日、女子800㎎/日とかなりの量が必要です。
しかし実際の摂取量は、男子504㎎・女子454㎎と半分ほどしか摂取できていません。
骨のカルシウム量は20~30歳をピークに減少し続けることから、成長期にどれだけ骨にカルシウムを貯蔵できるかが重要です。
カルシウムは全世代で不足しがち?
厚生労働省による「令和元年国民健康・栄養調査」で世代別のカルシウム摂取平均量を見てみましょう。実際のところ、どの世代でも推奨摂取量を下回っています。
年齢 | 男(mg) | 女(mg) |
7-14 | 676 | 594 |
15-19 | 504 | 454 |
20-29 | 462 | 408 |
30-39 | 395 | 406 |
40-49 | 442 | 441 |
50-59 | 471 | 472 |
60-69 | 533 | 539 |
70-79 | 585 | 574 |
とくに成長期のカルシウム不足は深刻で、目標の5~6割程度しか摂取できていない状態です。
カルシウムは、吸収されたのち骨に貯蔵されますが、血液中のカルシウムが少なくなると、骨から供給されます。毎日の食事から十分カルシウムが補給されない場合、骨からの流出が多くなってしまうので注意が必要です。
女性や高齢者はカルシウム不足にとくに注意
女性は生まれつき骨格が小さい反面、妊娠や授乳などによってカルシウムを大量に必要とします。また閉経後は卵巣から出る女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が急激に減少。
このエストロゲンの分泌量激減が骨量に大きな影響を及ぼしています。
エストロゲンには骨の吸収を抑制する作用があり、閉経前は骨の分解と生成にバランスが取れています。しかし分泌量が少なくなると、骨が破壊される速度の方が早くなるという事態に。骨粗鬆症につながるので、女性のカルシウム不足は注意が必要です。
上記のグラフでもわかるように、男性に比べ女性の方が骨粗鬆症の発生率が非常に高くなっています。とくに閉経後の増加が顕著です。
骨密度が低い状態だと、ちょっとした転倒で骨折などし、それをきっかけに車いすや寝たきり生活になる方も少なくありません。
成長期の子どものダイエットの影に発育障害
骨が成長する10代の時期、とくに女性は初潮前後の1年間で骨量が大きく増加します。
一方で、女性ホルモンが急激に増加する影響で身体がふっくらしてきますが、それを太ったと勘違いし、無理なダイエットをする子も少なくありません。
食事を抜いたり、必要量の栄養を摂らなかったりなどの間違ったダイエットの結果、十分に体が発達しない、月経が不順になる、無月経を併発するなどの弊害も。
成長期にカルシウムをはじめ十分な栄養を摂ることは、将来健康に過ごすための貯金につながるので、十分に気を付けたいものです。
カルシウムを多く含む食品は?
毎日の摂取目安を達成するためには、カルシウムを多く含む食品をコツコツ摂取したいところ。
文部科学省の「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」を参考に、カルシウムが多い食品をご紹介します。
カルシウムが多い野菜 | パセリ・モロヘイヤ・しそ・水菜・小松菜・つるむらさき・ |
カルシウムが多い大豆製品 | 高野豆腐・がんもどき・生揚げ・焼き豆腐・木綿豆腐 |
カルシウムが多い肉・魚 | 軟骨・豚もつ・煮干し・どじょう・うるめいわし・まいわし |
カルシウムが多い果物 | きんかん・ハスカップ・栗・キウイキウイ |
カルシウムが多い乳製品 | スキムミルク・プロセスチーズ・アイスクリーム・ヨーグルト・牛乳 |
とくにカルシウムを多く含むのは魚と乳製品です。
ただし食品によって吸収率に差があります。100gあたりの含有量や吸収率について、詳細はこちらの記事でご紹介しています。
過剰摂取の心配は?
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、18歳以上の成人にカルシウムの摂取上限を2500㎎/日と設定しています。過剰摂取の影響は次のようなものが考えられます。
- 便秘
- 腎臓結石
- 高カルシウム血症
- 血管の石灰化
- 高カルシウム尿症
ただしカルシウムは吸収率の悪い成分なので、摂取したすべての量が体内に吸収されるわけではありません。
一番吸収率の良い乳製品で40%、魚で30%、野菜20%と、わずかしか吸収されません。リンと結合して体外に排出されるものも多いのも事実です。
通常の食事においては、カルシウムの過剰摂取に関してそれほど心配する必要はありませんが、サプリメントなどの場合は別です。必要以上のカルシウムを摂取しないよう気を付けましょう。
骨以外にも関係あるカルシウムの役割
体内中の99%が歯や骨に存在するカルシウムですが、残りの1%の役割も非常に重要です。
その代表的なものをご紹介します。
- 血管系疾患(高血圧や動脈硬化)を予防
- 水分を保って肌を潤わす役割
- 神経伝達の補助機能がアルツハイマーや抗うつ症状にも関係
- 月経前症候群(PMS)にも効果
順に見ていきましょう。
血管系疾患(高血圧や動脈硬化)を予防
食事からのカルシウム摂取量が多いと、心血管疾患のリスクが低下する可能性があります。
実際、約41,500人を対象とした追跡調査で、カルシウム摂取量が多いほうが脳卒中のリスクが少ないとわかりました。
調査の結果、血圧値の安定以外にも血小板の凝集やコレステロールの吸収を抑えるなどが報告されています。また食事の中でも、乳製品からのカルシウム摂取が有効だとわかりました。
カルシウム・パラドックスとは
カルシウムの摂取が十分であれば、血圧の安定や脳卒中を防ぐ効果がありますが、カルシウム不足が慢性化すると骨から血液中に流れ出すカルシウム量が増えます。この現象をカルシウムパラドックスと言います。
その仕組みは次のとおりです。
体内のカルシウムが極端に不足すると、危機感を覚えた体が副甲状腺ホルモンを過剰に分泌。副甲状腺ホルモンは、骨から血液へカルシウムを移動させようと促します。その結果、血管中の余剰なカルシウムが血管の壁などで石灰化し血管を狭くしたあげく、心筋梗塞や狭心症の引き金につながります。
本来はカルシウム不足によって骨から溶け出したカルシウムですが、逆に血管で過剰になり健康上の脅威になるという意味で「パラドックス=逆説」と呼ばれています。
水分を保って肌を潤わす役割も
肌の表皮を形成する細胞の代謝とバリア機能形成に、カルシウムイオンの働きが大きいこともわかっています。
カルシウムイオンは、表皮の顆粒層に多く存在し、角質層へ変化する際に分化を手助けします。さらにバリア機能を形成する際にもカルシウムイオンが関わっています。
カルシウムイオンが少ないと、細胞の形成が不十分になったり、潤いある角質層が作られにくくなったりなど、健康的な肌の維持に悪影響を及ぼします。
参照:京都大学|表皮機能におけるカルシウムの役割
カルシウムはアレルギーやアトピー性皮膚炎にも関係しているかも
直接的な関係ではありませんが、アレルギーとカルシウム不足が関係しているといわれています。
情報伝達物質でもあるカルシウムは、濃度差が保たれでいる状態であれば問題なく情報伝達の役割をはたします。しかしカルシウムが不足するとそれを合図に副甲状腺ホルモンが分泌され、血液内に多くのカルシウムが溶け出してしまいます。すると情報伝達がうまくいかず免疫細胞の機能も悪くなってしまいます。
アトピー性皮膚炎や乾癬・接触性皮膚炎などでは、表皮内のカルシウムイオンが失われることも知られており、カルシウム不足がアレルギーに間接的に関わっているといえます。
参照:京都大学|表皮機能におけるカルシウムの役割
神経伝達の補助機能がアルツハイマーや抗うつ症状にも関係
カルシウムは神経伝達に深く関わっていて、アルツハイマー発症に関する調査では、発症した患者はカルシウム、オメガ3系多価不飽和脂肪酸、ビタミンC、カロテンの摂取が低いことがわかっています。
東京大学の調査では、軽度認知症からアルツハイマー型認知症へ移行する因子として血液中のカルシウム値が低いことに注目しています。
神経伝達の重要な因子であるカルシウムは、認知機能のほかに精神安定にも深く関わっています。神経の緊張や興奮を抑える働きがあり、不足すると自律神経を乱す原因になることも。
強迫神経症・うつ・不安・妄想など精神的な症状の背景には、カルシウムの代謝異常が隠れている場合があります。
カルシウム不足はイライラする?
精神伝達に重要な働きを持つカルシウム。脳の興奮を抑える役割がありますが、カルシウム不足=イライラに直結するわけではありません。
カルシウムは体内で厳密に管理されており、カルシウムが足りなくなると骨から血液中に放出されます。反対にカルシウムを大量に摂取した場合は、骨に貯蔵され、貯蔵しきれないものは尿中に廃棄されるなど常にバランスを保っています。
つまりカルシウム不足でイライラするとしたら、骨の貯蔵も底をつくくらいの極限状態ともいえます。
月経前症候群(PMS)にも効果
月経前症候群(PMS)は月経前3日から10日の期間に、精神的または身体的にさまざまな症状が起こる状態を指します。月経のある女性の半数近くが経験するといわれており、次のような症状が特徴です。
【精神的症状】
- イライラ
- 怒りっぽくなる
- 気分が沈む
- 不安になる
【身体的症状】
- のぼせる
- 下腹部痛や膨満感
- 腰痛
- 頭痛
- 乳房痛
個人差が大きく、症状の種類も人によって違います。このような生理前症候群(PMS)の症状緩和にカルシウムが有効だと言われています。
カルシウムには脳神経の興奮を抑える働きがあり、カルシウムの摂取で生理痛や精神症状が抑えられることがわかっています。また、カルシウムはホルモンを生産する内分泌系に影響を与えています。
実際、アメリカで1日あたり1000mgのカルシウムを3ヶ月間摂取する実験でPMS症状が軽減されたという結果も報告されています。
参照:Micronutrientsandthepremenstrualsyndrome:thecaseforcalcium
参照:Effectsofcalciumsupplementtherapyinwomenwithpremenstrualsyndrome
カルシウム不足に関するQ&A
カルシウム不足に関する、よくある質問をまとめました。
Q.疲れやすいのはカルシウム不足と関係ある?
Q.爪がガタガタ…これってカルシウム不足?
Q.まぶたがぴくぴくするのはカルシウム不足?
Q.カルシウム不足の対策は?
順に見ていきましょう。
Q.疲れやすいのはカルシウム不足と関係ある?
「疲れやすい」にはさまざまな原因がありますが、上質な睡眠によって疲労が回復するのは経験上誰もが実感しているところです。実はカルシウムは、眠気や睡眠と関係しており、それが精神疾患にも深く関わっているようです。
東京大学の上田泰己教授の研究では、眠気とカルシウムの関係が明らかにされています。神経が興奮すると細胞の外から細胞内にカルシウムが入り、リン酸化酵素が働き始めます。それが眠気のスイッチとなり、反対に覚醒するためにはカルシウムイオンが神経細胞から流出する必要があります。
昼間に学んだり体を動かしたり興奮することで、神経細胞がカルシウムを取り込みます。その結果、夜に眠気が訪れて、よく眠れるようになるのです。
この調節がうまくいかない場合は、よく眠れない・睡眠の質が悪いなどの睡眠障害の状態になりやすいのです。統合失調症やうつ、アルツハイマーやパーキンソン病などの精神疾患および神経変性疾患の患者に共通しているのが、このような眠りの異常です。そこにカルシウムの調節機能が深く関わっているようです。
Q.爪がガタガタ…これってカルシウム不足?
爪は骨のように硬いから、カルシウムを含むと考えがちです。しかし爪の硬さはカルシウムではなく硬ケラチンによって形成されています。
実際、皮膚に含まれるカルシウム100μg/gに対して、爪は500~700μg/gと数倍ありますが、骨に含まれるカルシウム30㎎/gに比べるとけた違いです。
ケラチンはタンパク質の一種ですから、健康な爪のためには十分なタンパク質の摂取が重要です。ほかにも亜鉛・鉄分・ビタミンなどを含むバランスの良い食事が必要です。
参照:大曲皮フ科ニュース
Q.まぶたがぴくぴくするのはカルシウム不足?
目の周りには筋肉がたくさんあります。その筋肉の収縮に関わっているミネラルがカルシウムとマグネシウム。
おもに伸ばす働きがマグネシウム、縮める働きがカルシウムと関わっています。どちらかが不足すると、筋肉の収縮のバランスが崩れ、その結果まぶたの痙攣につながってしまうのです。
改善のためには、カルシウムやマグネシウムに加え、神経・血液細胞を健康に保つB12や血行を良くするビタミンEなども意識して摂ると良いかもしれません。
Q.カルシウム不足の対策は?
カルシウム不足の対策は、毎日コツコツとカルシウムを多く含む食品を摂ることです。
吸収率を上げるために、ビタミンDやKを同時に摂るのが効果的です。
また摂取したカルシウムが骨に定着するためには、適度な紫外線と運動による骨への刺激も重要。
サプリメントを利用するのもひとつの方法ですが、一度に多くのカルシウムを摂取しても、体外に排出されてしまいます。できるだけ食品から摂るようにして、どうしても足りない部分を補うくらいにしておきましょう。
まとめ
この記事では、カルシウム不足に関する情報をご紹介しました。
最後に重要な点をおさらいしておきましょう。
- カルシウムの1日推奨摂取量は成人男性が750mg・成人女性が650mg
- カルシウムは全世代で不足している
- カルシウムを多く含む食品は魚や乳製品
- カルシウムは血管系疾患を予防する
- カルシウムは肌を潤す役割がある
- カルシウムはうつ症状にも関係している
- 月経前症候群PMSにも効果
カルシウムは歯や骨以外にも、精神安定や肌のうるおいにも関係しているとわかりました。細胞や血液中に含まれる全体のわずか1%のカルシウムが、絶妙なバランスで体調を整えてくれています。
カルシウムは、日本人に不足しているミネラルとして問題視されていますが、多く摂取しても体外に排出されたり結石になったりと難しいところです。
カルシウムを豊富に含む食品を選び、毎日の食事でコツコツ摂り入れていきたいものですね。