食品表示に甘味料として記載されているのをよく目にするソルビトール。厚生労働省が認めた食品添加物のひとつですが、安全性については気になるところ。
「ソルビトールって安全?」
「発がん性などの危険性はない?」
この記事では、ソルビトールの安全性について詳しく解説します。食品添加物に対する理解を深め、ご自身の生活に役立ててみてください。
ソルビトール(ソルビット)は危険性が高い?知っておきたい基礎知識
ソルビトールについて理解が深まるよう次の項目について解説します。
- ソルビトールは自然界にも存在する糖アルコール
- ソルビトールの摂取による影響の事例
- 動物試験では毒性の確認はされていない
- 摂りすぎに注意すれば副作用が起こる可能性は低い
- 体重15kgの小児なら2.25gを超えないように摂取するのが安全
順に見ていきましょう。
ソルビトールとは自然界にも存在する糖アルコール
甘味料は、糖質系甘味料と非糖質系甘味料の2種類に分かれています。糖質系甘味料は、砂糖・でん粉由来の党・そのほかの糖・糖アルコールに分けられ、ソルビトールは糖アルコールに分類されます。
糖アルコールは、糖質に水素を添加(還元)し、化学的に安定させたものです。天然の植物のなかにも糖アルコールは存在しますが、商品に使用されるものは工業的に酵素反応などで生産されています。
食品に利用されるソルビトールは科学的に作られていますが、自然界にも存在します。量は少ないですが、藻類(紅藻)やナナカマドの実・リンゴ・プルーンなどにも含まれています。
食品添加物として使用されているソルビトールの特徴について次のようにまとめました。
- 清涼感のある甘み
- カロリーは3kcal/g
- 砂糖の60%~70%の甘さ
- 酸やアルカリに強い
- 酸化しにくい
- 保湿性や保香性がある
- 虫歯になりにくい
- 血糖値を上昇させない
- 指定添加物で使用量に制限なし
還元水飴や還元麦芽糖水飴(マルチトール)にもソルビトールが含まれている
同じ糖アルコールの仲間である還元水飴や還元麦芽水飴(マルチトール)にもソルビトールが含まれています。
それぞれの特徴を次の表にまとめました。
名称 | 形態 | 特徴 |
還元水飴 | ソルビトールとマルチトールの共晶体 | ・砂糖の10~60%の甘味度 ・後味がすっきり ・まろやかな甘味 ・エネルギー換算係数約2kcal/g ・保湿性がある ・熱に対して安定性がある ・アミノ酸と加熱しても褐変しにくい |
還元麦芽水飴(マルチトール) | グルコースとソルビトールが結合した糖アルコール | ・まろやかでくどさがない ・砂糖の70~80%の甘味度 ・エネルギー換算係数2kcal/g ・熱、酸、アルカリに強い ・褐変を起しにくい ・カビにくく安定性がある ・消化されにくい ・低カロリー ・虫歯の原因になりにくい。 ・摂取しても血糖値の上昇やインスリンの分泌にほとんど影響を与えない |
どちらもソルビトールに似た特徴を持っています。砂糖と比較すると甘みは弱めですが、虫歯になりにくいなど多くのメリットがあります。
添加物を避けたい方はソルビトールだけでなく、還元水飴や還元麦芽水飴などの影響についても気にする方がよいでしょう。
漬物や佃煮、お菓子などに使用されていることが多い
ソルビトールは、保湿性や安定性などの特性を生かし煮豆、つくだ煮、生菓子、冷凍すり身などに使われます。
そのほかにもスナック菓子・米菓・油菓子・ビスケット・パン・ガム・ゼリーなど多くの商品に使用されています。
非常に用途が広いので、ソルビトールの表示をいたるところで目にするはずです。
さらに医薬部外品や工業用製品に使用されている
ソルビトールは、糖アルコールのなかでは市場規模が大きく、食品以外にも医薬品・医薬部外品・工業用製品など幅広く使用されています。
甘味料以外にも、そのさまざまな働きをいかして経口栄養補助剤や浸透圧下剤、眼科用剤などに用いられています。
化粧品に配合される場合は、保湿・保水・固形石鹸の透明化などが目的です。スキンケア製品・ボディ&ハンドケア製品・メイクアップ製品・洗顔料・シャンプーなど広い用途に使用されています。
なぜ危険?ソルビトールの摂取による影響の事例は…
ソルビトールをはじめ糖アルコール全般にいえることですが、過剰に摂取するとお腹が緩くなったり下痢をしたりするケースがあります。
ある製薬会社が発売した健康系のお茶に多量のD-ソルビトールが使用されており、下痢を起こすと厚生労働省から指摘を受けたことがありました。
この原因は、糖アルコールは腸で吸収されにくいため、腸管内の浸透圧を増加させ、水の再吸収を妨げることだと考えられています。つまり腸内で水分過多が起きるというわけです。
参照:医療NEWS|人工甘味料の摂取で起こる下痢を、腸内細菌が抑制していることをマウスで確認-慶大
ただし下痢の程度や起こりやすさには個人差があり、ソルビトールとの直接的な因果関係は明らかにされていません。
タピオカ入り痩身飲料でも同様の報告があった
健康茶以外にもタピオカ入りダイエット飲料でも同様の報告がありました。問題は、糖アルコールに緩下作用があるのにもかかわらず、下剤と同量のソルビトールを添加していた点です。
少量では問題ないソルビトールですが、多量に摂取すると下剤と同じような効果があります。販売されていた商品はダイエット目的と謳いながら、実際は下痢により体重減少を促す粗悪品でした。
商品の回収は完了していますが、過剰にソルビトールを添加すると体に悪影響が及ぶひとつの例です。
参照:厚生労働省|鳳凰製薬(株)が販売した「鳳凰軽身痩」について
フランスでは食用ソルビトールに関して注意喚起
2012年フランスでは食用ソルビトールを消費した1人が死亡、2人が入院した事件が発生しました。製品を分析したところ、実際はソルビトールではなく食品添加物の亜硝酸ナトリウムだったと判明。
亜硝酸ナトリウムは、ハムなどに使用される発色剤で、一日摂取許容量を超えて摂取すると心血管疾病を起こす可能性があるとされています。
問題の製品はインターネット経由で販売されており、ソルビトールの代わりに亜硝酸ナトリウムが配合されていた経緯は不明です。ただ、どちらにせよ大量の食品添加物を摂取することは危険だとわかります。
参照:食品安全委員会|フランス厚生・連帯省、「Sorbitol Food Grade(食用ソルビトール)」製品の消費に関するリスクを注意喚起
ただし動物試験では毒性は確認されなかった
下痢の症状が出ることが問題のソルビトールですが、動物試験では発がん性などの毒性は確認されませんでした。
ラットに対して2年間ソルビトールを与え続けた結果、多少のアレルギー反応が認められましたが、発がん性はないとの結果が出ています。さらに生殖毒性と遺伝毒性も同じく認められなかったと報告されています。
ただし、ソルビトールの化合物が、ヒトのリンパ球における紫外線照射後のDNAの修復を遅らせたとの研究もあるようです。
発がん性も疑われているが抗がん作用が発見された研究もある
SPANDIDOS PUBLICATIONで発表されたソルビトールと腫瘍細胞に関するレポートでは、ソルビトールに抗ガン作用が認められたとあります。
レポート内では、ソルビトールの利尿脱水の特性が脳浮腫・緑内障などの治療に使用されてきたことに触れ、さらにシグナル伝達経路の活性化や腫瘍細胞のアポトーシス(死滅作用)を誘導する可能性などについても言及しています。
研究では、ソルビトールの濃度が0.5Ⅿ以上の場合、ガン細胞の増殖を阻害し、アポトーシスを誘導することが確認されたと報告しています。
※アポトーシスとは、あらかじめ予定されている細胞の死のことです。
参照:https://www.spandidos-publications.com/ol/7/6/1992#
結論:摂りすぎに注意すれば副作用が起こる可能性は低い
食品添加物は、使用が許可されるまでに有用性や健康への影響などを実験やテストを通じて厳しくチェックされています。
さらに食品添加物の安全性については、厚生労働省が食品安全委員会とともに有用性や害を確認し、ヒトの健康を損なう恐れのない場合に限って使用を認めています。
また厚生労働省は、一日摂取許容量(ADI)を定め、毎年食品添加物の国民一人当たりの摂取量も調査することで安全性を確認し続けています。
多量に摂取した場合に起こった問題については、前述しましたが、摂りすぎに注意すれば副作用が起こる可能性は低いといえます。
男性は体重1kgあたり0.15g、 女性は体重1kgあたり0.3gが目安になりそう
ソルビトールをはじめ糖アルコールは、食品添加物でありながら使用量の制限がとくに定められていません。しかし体質によっては、下痢をしやすいなどの弊害があります。
東京都福祉保健局に「ノンシュガーや低カロリーの菓子や飲料を食べたり飲んだりすると下痢をしてしまうのですが、何故でしょうか?」といった質問が寄せられており、摂取目安量を紹介していたものを転載しておきます。
一度に摂取したときの緩下作用を起こさない単位体重当たりの量(成人)は次のとおりです。
男 | 体重1㎏あたり0.15g |
女 | 体重1㎏あたり0.3g |
これは、あくまでも参考値としての数字です。体質に合わないと思った場合は、さらに摂取量を減らしましょう。
参照:東京都福祉保健局|ノンシュガーや低カロリーの菓子や飲料を食べたり飲んだりすると下痢をしてしまうのですが、何故でしょうか?
各食品メーカーでは食品の外装に注意書きされていることが多い
各食品メーカーは、摂取しても問題がない量のソルビトールを使用していますが、体質によってはお腹を下しやすい方もいます。
そういったトラブルを避けるために食品メーカーでは、食品の外装に「体質によりお腹が緩くなることがあります」などと注意書きを記載するケースが多いようです。
心配な方は、必ず食品表示欄をチェックしてから購入しましょう。
体重15kgの小児なら2.25gを超えないように摂取するのが安全
子どもの場合は、どれくらいの量だとお腹を下しやすくなるのか気になるところです。そこで東京都福祉保健局が発表した「体重15㎏の小児に緩下作用が懸念される推定摂取量」を参考に摂取目安を紹介いたします。
平成25年度調査に基づく推定値が、ほかの糖アルコールについても紹介されていたので表にまとめました。
名称 | 一度に摂取しても緩下作用が起こらない糖アルコールの摂取量 |
---|---|
ソルビトール | 2.25g |
エリスリトール | 9.9g |
マルチトール | 4.5g |
キシリトール | 4.5g |
どのような食品に、どの程度のソルビトールが含まれるのでしょうか?
例えば、あるマーマレードの1瓶中に含まれるソルビトールが1gなのに対し、ある40g入りのグミを一袋にはソルビトールが3g含まれます。
このように、食品によって添加されているソルビトール量が異なるので注意が必要です。
ただし食品表示にソルビトールの量が詳しく表示されているケースはまれです。とくにお腹を下しやすい体質の方は、食べる量に気をつけましょう。
低カロリー飲料やゼロキロカロリーなどの飲料は大人の方が摂取している
子どもへの影響も心配ですが、低カロリー飲料やゼロキロカロリーなどの飲料は、大人の摂取がはるかに多いのが現状です。
2015年におこなわれた「都民を対象とした低カロリー系飲料等の摂取に係る調査結果」では、大人(15~69歳)の摂取状況を調べたところ、糖アルコールを含有している可能性が高い6カテゴリーのうちいずれかを摂取することがある人の割合は全体の42.8%でした。
これは子どもの22.0%にくらべはるかに高い数値です。なかでも30~40代の女性が最も多く摂取している結果となっています。
糖アルコールには緩下作用があるので、カロリーオフだからといって摂取しすぎは禁物です。
ソルビトールの危険性に関するQ&A
ソルビトールは、発がん性などがない比較的安全な甘味料だとわかりました。注意点は多量に摂取すれば下痢をしやすいことです。
さらにソルビトールについて理解を深めるため、次のようなQ&Aで深掘りしていきます。
Q. ソルビン酸やソルビン酸カリウムと何が違うの?
Q. ソルビトールを摂取すると血糖値は上がる?
Q. 虫歯予防には効果があるの?
順に見ていきましょう。
Q. ソルビン酸やソルビン酸カリウムと何が違うの?
名前が似ていますが、ソルビトールとソルビン酸やソルビン酸カリウムとはまったく別のものです。
ソルビン酸やソルビン酸カリウムは不飽和脂肪酸の一種で、広範囲の微生物に抗菌性を持つ保存料です。
ソルビン酸は、チーズ・練り製品・漬物・ソーセージなどに利用されるほか、カリウム塩であるソルビン酸カリウムは、ケチャップ・スープ・果実酒・乳酸菌飲料などに使用されています。
Q. ソルビトールを摂取すると血糖値は上がる?
糖アルコールは、消化酵素で消化されにくく、吸収もされにくいので血糖値の上昇は少なめです。
この性質のため、糖尿病や低炭水化物ダイエットをおこなっている人たちに好んで利用されています。
エネルギー源として肝臓で代謝されますが、利用する際にインスリンを必要としません。
Q. 虫歯予防には効果があるの?
砂糖と糖アルコールは、似たような分子構造をしています。わずかな違いですが、虫歯のもとになるミュータンス菌は、ソルビトールで酸を作ることができません。
同じ糖アルコールであるキシリトールは、虫歯を予防するとしてガムなどに利用されています。
ただし酸をつくらないからといって、ソルビトールが添加された商品を摂取すれば虫歯を予防するわけではありません。
甘くても虫歯の原因にならないだけで、虫歯予防のためには丁寧なブラッシングが大切です。
まとめ
このページでは、ソルビトールの危険性や問題点についてまとめました。
最後に重要な点をおさらいしておきましょう。
- ソルビトールは自然界にも存在する糖アルコール
- 多くの種類の食品をはじめ医薬品・化粧品にも利用されている
- 腸で吸収されにくく血糖値も上がりにくい
- 酸を作らないので虫歯の原因にならない
- 一度に多量摂取するとお腹を下すこともある
- 動物実験では毒性は認められなかった
- 体重15kgの小児なら2.25gを超えないように摂取するのが安全
甘くて低カロリー、血糖値が上がりにくく虫歯の原因にならない、さらには天然由来の原料で動物実験での安全性も確認されているソルビトール。
良い点が多い甘味料ですが、大量摂取は下痢につながるので注意が必要です。体重が気になる方はカロリーオフ商品をつい手に取ってしまいがちですが、成分をしっかりチェックし、許容量を超えないように気を付けましょう。