低脂肪牛乳は普通の牛乳に比べてあっさりしています。好みもありますが、一般的な印象として低脂肪牛乳のほうがダイエットや生活習慣病が気になる人に向いている感じがしますよね。
しかし、はたしてそれは真実でしょうか。
この記事では、低脂肪牛乳について深掘りし、普通の牛乳との違いや飲むデメリットについて詳しく解説します。低脂肪牛乳と普通の牛乳どちらを選ぶべきか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
低脂肪牛乳は体に悪い?危険性・肥満のリスク低減について気になる噂を徹底調査
低脂肪牛乳は身体に悪いのでしょうか。データをもとに次の4つのポイントにまとめました。
- そもそも低脂肪牛乳とは「生乳から乳脂肪分を除去したもの」
- 体に悪い?2007年の研究では85%の女性の不妊率が高まった
- 飲む意味なし?牛乳の健康効果の多くは「脂肪分」が重要
- 普通の牛乳より低脂肪乳を飲むメリットは「値段が安い」こと
順に見ていきましょう。
そもそも低脂肪牛乳とは「生乳から乳脂肪分を除去したもの」
低脂肪牛乳とは、生乳に比べて乳脂肪分が「100mlあたり1.5g以上低減」もしくは「25%以上低減」されたものを指します。加工乳であれば、乳脂肪分が「100mlあたり0.5g~1.5g以下」であることが条件です。
低脂肪牛乳は、生乳を遠心分離させ乳脂肪分の一部を除去しています。そのぶんカロリーは少なくなるにもかかわらず、カルシウムは生乳の同等程度です。
「低脂肪牛乳」と「低脂肪乳(加工乳)」「低脂肪乳(乳飲料)」の違いは…
ひとくちで牛乳といっても、普通の牛乳以外に低脂肪乳・成分調整牛乳・無脂肪牛乳・加工乳・乳飲料の5種類があります。それぞれの違いは乳脂肪分の割合と原料が生乳100%かによります。
特徴については、次の表を参考にしてください。
低脂肪乳の原料は生乳のみ。乳脂肪分の一部を遠心分離により減らしています。乳脂肪分は0.5%~1.5%と定められています。
成分調整牛乳は、水分や乳脂肪分、ミネラルなど乳成分の一部を除去し、成分調整したものです。乳脂肪分の条件は定められていません。一方で無脂肪牛乳は、生乳からほとんどすべての乳脂肪を取り除いたもので乳脂肪分が0.5%以下となっています。
加工乳は、生乳や牛乳に脱脂粉乳やクリーム、バターなどの乳製品を加えたものを指します。ただし牛乳や乳製品以外は加えられていません。乳飲料は、乳製品や生乳・牛乳などを主原料に、ビタミン・ミネラル・果汁など乳製品以外を加えたものです。
このように、一口に牛乳といっても原料と乳脂肪分の割合で種類が分けられています。
体に悪い?2007年の研究では85%の女性の不妊率が高まった
2007年に行われたハーバード大での研究によると、1日に500g以上の低脂肪ヨーグルトや低脂肪乳を摂取する女性は、そうでないグループに比べ85%も不妊率が高まると報告されています。
その原因として考えられるのは、次のようなものです。
脂肪分を取り除く過程でエストロゲンやプロゲステロンなどが除去されアンドロゲンやインスリン様成長因子1が残されます。その結果、低脂肪牛乳を飲むことで男性ホルモン過多となり、卵胞の成熟や排卵が阻害されてしまうのです。
このことから妊活を考えている女性の場合、低脂肪牛乳の摂取を控えたほうがよさそうですね。
参照:A prospective study of dairy foods intake and anovulatory infertility
参照:KyotoArtClinic|妊活に適した食材の選び方
デマだった!肥満のリスクは全脂肪乳より低脂肪乳のほうが高い
ダイエットの観点からカロリーが低い低脂肪牛乳のほうが肥満予防には適しているはずです。
しかしカナダ・マクマスター大学の研究グループによる21か国・約15万人・9年間にわたる大規模追跡調査の結果、意外なことがわかりました。
南米・アジア・中東・アフリカなど5大陸の多様な国を対象とした調査(日本は含まず)では、牛乳や乳製品を多く摂取する人は、少ない人に比べて2型糖尿病・高血圧・肥満・メタボリックシンドローム・心臓病・脳卒中のリスク低下が期待できると報告されました。
一方で、低脂肪牛乳と全脂肪牛乳とを比較したところ、むしろ全脂肪牛乳のほうがメタボリックシンドローム予防の効果が高いことがわかっています。
参照:J-milk|牛乳中の飽和脂肪酸は生活習慣病の原因? -その4- 低脂肪乳のほうが脂肪分が少なく健康的?
むしろ牛乳乳製品の摂取を増やすと体重や体脂肪量を減少させる
上記の調査の介入研究によると、食事全体のエネルギー摂取を制限して、牛乳製品摂取量を増やすと、体重や体脂肪量が減少することが示されました。
エネルギー制限をせずに牛乳や乳製品の摂取を増やしても体組織には影響がなく、生活習慣病のリスク低下につながることがわかりました。
減量を目的としていても牛乳や乳製品の摂取制限は必要ないばかりか、むしろ減量効果があるとは驚きです。
飲む意味なし?牛乳の健康効果の多くは「脂肪分」が重要
牛乳が健康に及ぼす調査を調べてみると、プラスの影響を証明するデータが多く見つかります。
例えば、乳脂肪に含まれる酪酸が腸内の炎症を抑えリーキーガットを防ぐ働きがある、乳脂肪に含まれるフィタン酸には中性脂肪を減らし、インスリン抵抗性や血糖値を改善する働きがある、などです。
とくに高脂肪乳製品の摂取にはメタボリックシンドローム・糖尿病・心疾患へのリスクを低下させる効果があると認められています。
つまり牛乳の健康効果のカギは、乳脂肪分にあると考えられます。
参照:(1)Oral butyrate for mildly to moderately active Crohn’s disease
参照:(2)The relationship between high-fat dairy consumption and obesity, cardiovascular, and metabolic disease
普通の牛乳より低脂肪乳を飲むメリットは「値段が安い」こと
同じブランドの普通の牛乳と低脂肪牛乳の価格を比較すると、低脂肪牛乳のほうが少しだけ安いですよね。これは取り除いた乳脂肪分だけ安くなったと考えてよいでしょう。
取り除いた乳脂肪分は、バターや生クリームの原料となります。栄養価の高い部分なので、その分カロリーは少なくなります。
お財布にもダイエットにも優しいと考えるところですが、これまでの検証で必ずしもダイエット効果があるとはいえないとわかりました。
健康面への影響を考慮しないとしても、低脂肪牛乳を飲むメリットは価格のみと考えられます。
カロリーや脂質も少ない
同じブランドの牛乳と低脂肪乳を比べた場合、カロリーは牛乳約130kcalに対し低脂肪乳約100kcalです。また脂質も7.6gに対し4.1gと半分近い数値となっています。
成分調整牛乳などの場合は、脱脂粉乳などが加えられカルシウムやタンパク質の栄養価を高める場合もあります。
カロリーや脂質が少なく栄養価が高いので、この数値だけ見ると、低脂肪牛乳のほうが魅力的に感じるかもしれません。
アメリカでは小児用ガイドラインで低脂肪牛乳や無脂肪牛乳が推奨されている
アメリカでは、子どもの肥満が深刻です。それを受けて2005年に米国小児科学会(American Academy of Pediatrics, AAP )とアメリカ心臓協会(American Heart Association, AHA) は、子どもの肥満を防ぐために次のような推奨をしました。
「2歳以上のすべての子どもは、飽和脂肪酸摂取量を減らして過剰な体重増加を予防するため、乳脂肪分1%以下の低脂肪乳あるいは無脂肪乳を飲むこと」
これは、牛乳から摂取する脂肪分を減らして肥満を防ぐことが目的です。しかし結果は、飲んだ牛乳の種類と体重との相関関係はなく、むしろ低脂肪乳や無脂肪乳を飲んでいる子どものほうが全乳を飲んでいる子どもよりもBMIが高いという報告すらあります。
参照:Longitudinal evaluation of milk type consumed and weight status in preschoolers
低脂肪牛乳は体に悪い?に関するQ&A
低脂肪牛乳に関して、よくある質問をまとめました。
Q. 牛乳と低脂肪牛乳はどっちが体にいい?
Q. 低脂肪牛乳に添加物は入っている?
Q. 乳製品は糖尿病のリスクになる?
Q. 牛乳を飲むとガンの発症リスクは上がる?
気になる項目をチェックしてみましょう。
Q. 牛乳と低脂肪牛乳はどっちが体にいい?
今までご紹介したデータから見る限り、牛乳(全乳)のほうが身体へのプラス効果は高そうです。
カルシウムやビタミン・ミネラルなどの栄養素は、それほど差がないので、摂取エネルギーを抑えたい場合は低脂肪牛乳を選ぶといいでしょう。
ただしガン発症リスクに関しては、気になる調査もあります。
乳製品全体で見ると、消費量と癌の死亡率には関連性がありませんが、乳製品の摂取量が多いほうがガン発症リスクを上げるといった調査結果も。
例えば、4万3千人を対象とした調査では、乳製品の摂取量が増えるほど前立腺がんのリスクが高まることがわかりました。さらに前立腺がんの進行度も同様の結果が得られています。
結論としては、牛乳や乳製品を適度に摂取するには問題ないが、過剰摂取しないことが大切といえるでしょう。
参照:がん対策研究所|乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について
Q. 低脂肪牛乳に添加物は入っている?
上述でも解説しましたが、牛乳には全部で6つの種類があります。それが次のとおりです。
- 無調整牛乳
- 低脂肪乳
- 成分調整牛乳
- 無脂肪牛乳
- 加工乳
- 乳飲料
このうち牛乳のみを原料としているのは、牛乳・低脂肪牛乳・成分調整牛乳・無脂肪牛乳の4つです。残りの加工乳と乳飲料には、牛乳以外のものが添加されています。
加工乳には、クリームやバター・脱脂粉乳を加えており、乳飲料には牛乳の成分以外の原料も使用されています。
栄養強化目的でカルシウムや鉄分を加えたり、コーヒーや果汁、糖分を加えたりなど、牛乳というよりも嗜好性が高い食品といえます。
低脂肪牛乳だと思って購入したら、加工乳だったといった間違いも起こりうるので、成分表示をチェックしてから購入するようにしましょう。
参照:国民生活センター|牛乳だと思って購入したら、加工乳だった
Q. 乳製品は糖尿病のリスクになる?
牛乳には炭水化物が含まれていますが、牛乳やヨーグルトのGI値は27で低GI食品の部類に入ります。(一般的にGI値が55以下の食品は低GIとされる)
糖尿病診療ガイドライン(2019)では「日本人においても低GIならびに低GL(GIに糖質の割合をかけた値)の食品の摂取が多いほど、糖尿病の発症リスクが減少した」と報告。
また、オーストリアのウィーンで開催された欧州糖尿病学会 (EASD) の今年の年次総会で発表された新しい研究によると、高脂肪乳製品の消費量が最も多い (1日8回以上) 人は、23% 摂取量が最も少ない人(1日1本以下)よりも2型糖尿病を発症するリスクが低いと報告されています。
このことから牛乳および乳製品は糖尿病にはプラスの効果がある食品だといえます。ただし「高脂肪乳製品」のほうが効果が高いことから、低脂肪牛乳よりも普通の牛乳のほうが適しているかもしれません。
また、糖分などが添加されている加工乳やヨーグルトは、糖尿病のリスクが高い方にとってはマイナス効果のほうが大きいので、乳製品ならどれでも良いわけではありません。
Q. 牛乳を飲むとガンの発症リスクは上がる?
牛乳に関するさまざまな文献を見ると、牛乳ががん予防に有効である説とガン発症のリスクを高める説との両方が混在しています。
この理由のひとつに、牛乳に含まれる「インスリン様生長因子1(IGF-1)」というホルモンの存在があります。このホルモンの役割は次のようなものです。
- 卵や精子の形成
- 受精卵の発生
- 生体の発達・成長・成熟
- 物質代謝の調節
- 老化の抑制など
健康維持や成長に非常に役立つホルモンですが、過剰摂取すると異常な細胞増殖が起こるともいわれています。それがガン化の一因とされ、牛乳の過剰摂取がガン発症のリスクを高めると考えられても不思議ではありません。
つまり1日1杯の牛乳程度なら良い効果が期待できますが、過剰摂取した場合はガン発症のリスクが高まると考えられます。
参照:東京大学大学院農学生命科学研究科 研究成果|動物の成長や発達を促進するホルモン「インスリン様成長因子」の受容体には、長時間かけて作用を誘導する仕組みが内蔵されている
参照:乳の学術連合|牛乳摂取による成長ホルモンーインスリン様成長因子系を介した骨量増加作用ー小児における検討ー
まとめ
このページでは、低脂肪牛乳の安全性や飲むデメリットについてまとめました。
最後に重要な点をおさらいしておきましょう。
- 低脂肪牛乳とは「生乳から乳脂肪分を除去したもの」
- 2007年の研究では85%の女性の不妊率が高まった
- 牛乳の健康効果の多くは「脂肪分」が重要
- 低脂肪乳を飲むメリットは「値段が安い」こと
低脂肪牛乳のメリットは、カロリーが低い点と価格が安い点でした。栄養面では普通の牛乳に劣らないとはいえ、不妊率の上昇などを報告する調査もあり健康面への影響はグレーです。
また牛乳の中にも、加工乳や乳飲料など嗜好的要素が高い商品もあります。ご自身の目的に合った牛乳を手に入れるためには、成分表示をしっかりチェックして購入するようにしましょう。